こんにちは、細川です。システム開発サービス事業のデータマネジメント分野のエンジニアリングマネージャーをしています。
10周年記念ブログリレー5日目のテーマは技術戦略です。
背景
私の任務の1つは会社の売上成長率をより伸ばせる強みを確立することです。そのために考えるべきイシューに「エンジニア部門としてどんな技術力を磨くべきか?」があります。これは技術戦略の重要な一角だと思います。
「この技術に重点的に詳しくなれば取引社数は爆増!」といったマーケティング面からの販路の勝ち筋はまだ見えていないので、現時点でとっている方針はエンジニアリング指針を下地として以下の3つです。
- モダンデータスタックのトレンドを追うことを推奨する。品質とコストとスピードを高いレベルで両立しうるため
- 技術製品の選定は個々のチームが裁量を持つ
- 案件によらず使えるエンジニアリングやデータマネジメントの課題抽出スキルは標準化させる
良く言えばデータマネジメント分野の広い開発案件に対応できるのですが、一方で
「ある程度絞ったポジションを取ることにより市場で高い存在感を持てるのではないか?」という疑問もあります。
技術畑で育ってきたこともあり経営やマーケティング分野の引き出しは手薄だったので、技術戦略の考え方を体系的に学ぶことにしました。
技術戦略は経営戦略の一部
経営学によると、技術戦略はそもそも経営戦略のなかの機能戦略のなかの1つだそうです。
経営戦略には3つのレベルがあります。図にします。
企業戦略
企業の長期基本戦略です。経営ビジョンの策定や企業ドメインの決定を行います。
ちなみにFLINTERSの企業ドメインはグループ由来のデジタルマーケティング、メディアプラットフォーム、新規ドメインの3領域です。ビジョンは「データ活用でユーザー体験を豊かにする」です。
事業戦略
顧客満足と市場での競争優位を実現するための、事業の基本戦略です。市場、顧客へのアプローチ、商材、収益モデルの策定を行います。
FLINTERSの今後の事業戦略は内緒ですが、現在展開している事業は主にシステム開発サービスと、デジタルマーケティングを支援する自社プロダクトの提供です。
機能戦略
事業を具体的に展開するために必要となる機能レベルの戦略です。技術戦略はここに位置します。
他には営業戦略、本社機能の方向づけなどがあります。
つながっているのが大事
経営がうまくいくためには3つのレベルがそれぞれ繋がっている必要があります。技術戦略は他の戦略から独立して決めるものではなく企業戦略や事業戦略に連動して決めるため、マーケットや商材に関連しています。
事業モデルによって技術に期待することが違う
ここで気づいたことがあります。事業モデルによって技術に期待することが違うことです。
自社プロダクトの事業では、技術は顧客にプロダクトを提供するための過程です。顧客が関心を持つのは技術力ではなく商品力です。
そのため技術戦略の検討は内部環境が分析の出発点となります。
一方、システム開発サービスの事業では技術それ自体が商材になります。具体性の差こそあれど顧客は自社が何の技術力を持っているかに興味があります。
そのため技術戦略の検討は外部環境が分析の出発点となります。
システム開発サービス市場のトレンドや顧客のニーズが先行するということです。
この違いを念頭に入れておかないと、事業戦略とちぐはぐな技術戦略を作ってしまう危険性があることがわかりました。
技術戦略
技術戦略の検討事項の具体例をいくつか挙げます。コア技術の特定について重点的に書きます。
コア技術の特定
内部環境と外部環境を分析し、自社にある技術を4分類します。
- コア技術
- 競争優位性が高くプロダクト価値も高いもの。特許技術や複雑なビジネスのドメインロジックやアルゴリズムなど
- ベース技術
- 競争優位性は低いがプロダクト価値は高いもの。OSSや模倣可能な技術など
- リード技術
- 競争優位性は高いがプロダクト価値は低いもの。プロダクト価値をまだ見いだせていない新技術など
- 一般技術
- 競争優位性が低くプロダクト価値も低いもの
コア技術は競争優位性の源泉になるため積極的に投資する一方で、一般技術はSaaSを調達して自社で持たないなどの戦略が考えられます。
考察
ここからは完全に独自解釈です。
まず、上記の「競争優位性」の競合他社が何を指しているかに注意します。
自社プロダクトの事業の競合他社は類似プロダクトを売っている会社です。
一方、システム開発サービス事業の競合他社はシステム開発の会社であり、プロダクト価値とは「商材としての技術力の価値」に読み替えます。
FLINTERSに照らして考えてみます。当社のシステム開発サービス事業で採用している技術製品はOSSやクラウド製品が中心で、導入障壁の低さだけ見るとベース技術に該当することが多いかと思います。
またデータマネジメント全般の技術力はまだそれほど普及しておらず競争優位性は高い気がしますが、価値の点でコア技術になりかけなリード技術と思います。
ただし内部環境、外部環境やプロダクト価値という言葉から察するように、この技術分類は時間軸の現在を切り取ったものにすぎず、時間が経つと変化します。リード技術やベース技術がコア技術に成り代わったり、コア技術が陳腐化して一般技術になったりします。
これは言い換えると自社の工夫によりベース技術+競争優位性→コア技術、リード技術+プロダクト価値→コア技術のように転換できるといえます。
記事冒頭の「強みを確立する」「技術力を磨く」とはつまりこういうことなんだと思います。
複数の事業アセットとの組み合わせで考えてみます。
例えばOSSやクラウド製品は導入するだけなら簡単でも、データリテラシーや製品知識が不足しているとフル活用するのが困難な場合があります。また個人依存でアウトプットの質がまちまちな開発ベンダもあります。
製品を上手に活用するインテグレーションスキルの確保、標準化によるスキル担保は競争優位性になりえます。
またマーケティングを強化することで、技術にプロダクト価値(商材としての技術力の価値)を付与します。以下のようなことが考えられます。
- 同じジャンルの技術製品を広く知っている
- 顧客に最適な技術製品を選定できる
- 特定業種や業務のドメイン知識が豊富
- 顧客のビジネスにより近い業務設計を的確に行える
- 共通する課題を見つけて解決策を自社プロダクト化できる
- 優れた技術製品を保有するベンダと親交がある
- ベンダ企業の顧客への製品インテグレーションを支援できる
- 多くの顧客基盤を持つ企業と親交がある
- 顧客の紹介を得る
技術選定
コア技術の特定までで今回書きたかったことをすべて書いてしまいました。ここからはざっくりいきます。
技術選定、開発ロードマップ、業務基盤、人材確保、これらは自社プロダクトの事業でもシステム開発サービス事業の個別の案件でも考え方に大きな違いはないかと思います。
システム開発サービス事業では複数の案件を持つため、ある案件で得られた知見を他の案件にも応用しようとしたり、開発道具を共通化する標準化のインセンティブが作用します。
またプロダクトの所有者ではないため、プロダクトの所有者である顧客企業の立場にも立って分析することが重要になります。(自社の立場が欠けてもだめ)
技術選定はいくつも選択肢があります。研究開発する、OSSなど技術を組み合わせる、SaaSを組み合わせるなど。
重要なことは、解決したい課題が解決することと、会社の技術戦略とリンクしていることです。この2つを前提として、上がった選択肢を導入コスト、パフォーマンス、セキュリティ、変更容易性などの観点でさらに評価して、最も適した技術を選びます。
開発ロードマップ
マーケットのニーズ、プロダクトに設ける機能、機能を実現する技術のつながりを時間軸の上に図示します。 組織や職種をまたいだ連携の誘発につなげます。
先述の見出し「つながっているのが大事」を実現するための中間成果物になります。
業務基盤
CI/CDや課題管理など開発を支援する道具に関することです。
人材確保
採用や育成に関することです。コア技術や技術選定と強く関係しており、OSSでは転職市場の技術者の数が技術選定に影響を及ぼす場合もありえます。逆もしかり。
まとめ
10周年記念ブログリレー5日目は技術戦略について学びました。今日のハイライトは以下の3つです。
- 技術戦略は大きなの経営戦略の1つであり、1レベル上の事業戦略とつながっていることが大事
- システム開発サービスの事業では技術それ自体が商材になる。技術戦略の検討にはシステム開発サービス市場のトレンドや顧客のニーズが先行する。
- 自社の工夫によりベース技術+競争優位性→コア技術、リード技術+プロダクト価値→コア技術のように転換できる
学んだことを踏まえて、マーケティング部門と連携して内部・外部環境の分析と戦略立案に努めようと改めて思いました。
文字数の多い記事になってしまいました。最後まで見てくださった方はありがとうございます。ブログリレー6日目の記事もお楽しみに。
ちなみに今回読んだ本はすべて会社に買ってもらいました。申請すればまず買ってもらえるので、FLINTERSは専門書をたくさん読んで知識の引き出しを増やしたい方におすすめな会社です。
採用ページはこちらです↓
採用情報|株式会社FLINTERS
参考文献
- 第31回 経営戦略の3つのレベルを認識する | コラム | 株式会社 日本能率協会コンサルティング (2015.05.15) 2023.09.11閲覧
- 佐藤大典(2023.03.22)エンジニアのためのマネジメント入門 p126-128, p188-194
- 新村剛史(2022.10.19)IT企業のためのBtoBマーケティング